体験談
海難事故を経験して
池田順治
私は、去年海難事故を起こし関係者に大変ご迷惑をお掛けしましたので、この経験を海洋レジャーを楽しまれる方々の一助になればと思ってペンをとりました。
去年9月29日午前9時頃、福岡県志摩町から私の所有するボート(1トン)に私一人が乗り組んで壱岐島方面の釣場に向かいました。
当日の天気予報では、南東の風、波の高さは1.5mのち1mとの予報でしたから、静かになりつつあると判断しました。ところが釣場の多島付近に着いてみるとまだ1.5mから2mの波がありました。でもこの程度の波はいつもの事でもあり、だんだん平穏になるだろうと別に気に留めることもなく釣を始めました。午後9時頃でした釣の成果も止まりましたし、相変わらず波も2m位あったので、仮眠するために多島の北側約300m付近の波の静かなところに移動し、アンカーの掛かり具合を確かめてから錨を入れ、回転灯と停泊灯を点灯、睡眠薬を飲みキャビンで仮眠しました(私は、2年程前から睡眠薬を常用しておりますが、釣場で飲んだのは今回が初めてです)。
睡眠中突然、ガラガラ、ドスンと激しい音とともに、船体が大きく左右に揺れ身体を壁に打ちつけられましたが、真っ暗ななか必死でヘッドライト、発煙筒、救命具と携帯電話を手さぐりで探しました。
当初は何が起こったのか見当もつきませんでしたが焦る気持ちを落ち着かせ、周囲の状況を観察したところ、多島の岩場に乗り揚げていることを知りました。
とりあえず携帯電話で会員の吉田さんに連絡して、マリーナのハーバーマスターと海上保安部に救助をお願いしてくれるよう依頼しました。
その後は、船体に打ちつける波の音と激しい動揺に不安と心の焦りの中で、ただ呆然と救助を待つしか方法がありませんでした。しかし、その間に同僚から救助の情報と励ましの電話が次々と入ってきたことには、希望が湧き精神的に落ち着きを取り戻せたので非常に有難かったし、勇気づけられました。
午前4時頃、待ちに待った保安部の大型巡視艇が遠くの方からサーチライトを照らしながら私を捜索している様子が見えたので、直ちに発煙筒を打ち上げて私の位置を知らせ、巡視艇のゴムボートにより無事救助されました。私が今回の海難事故で得た教訓は、(1)俺は、大丈夫と思われる方も居られましょうが、出港に際しては気象情報から判断して、無理な航海計画を立てないこと。出港してからも引き返す勇気を持つこと。
(2)無線、携帯電話、発煙筒、懐中電灯、救命具は、どの様な場合でも直ちに取出して使用できるようにしておくこと。
発煙筒は暗闇でも即座に点火できるように、使用法を良く覚えておくこと。
(3)万一の事故に備えて、緊急連絡を携帯電話で行う人は、電話機をビニールの袋に包んで(ビニールに入っていてもベルは鳴ります)自分の身に付け、海上保安部、マリーナ、会員、家族等への連絡先を短縮電話番号で必ず記憶させておくこと。
(4)事故当時夜間ではありましたが、GPSのお陰で自船の位置がすぐに判りGPSの威力には改めて感心させられました。等が重要なことであることを痛感しました。
乗場げの原因については、海上保安部の調査で錨泊した付近の海底が岩礁であったため、風浪による船体動揺で、アンカーロープが岩礁で擦れて切断、漂流後岩場に乗場げたとの結論でした。
また、私は海に関しては35年のキャリアがあったことから、つい油断し自信過剰が事故の原因でもあったと反省しています。
今回の事故では、深夜にもかかわらず会員の吉田氏、深見氏、吉村氏、寺山氏の4人の方々が連絡を受けて直ちにマリーナ基地に集まり、手分けして関係各方面との連絡を行う一方、私と私の家族にも救助の情報を伝えていただきました。更に、夜明けを待って救助船を仕立てて現場に急行、巡視艇と要請により出動した船越漁協救難所の救助船と一致協力して浸水するボートを排水しながら基地まで曳航する等の救助活動に協力していただきました。
ところで、私はこれまで海上保安部の巡視艇とは取締まる側と取締まれる側の関係から、近寄り難いものと思っておりましたし、巡視艇に救助されたら厳しくお叱りを受けるものと緊張していました。ところが、海上保安官から「大変でしたね、寒くないですか?」と優しくいたわりの言葉を掛けられ、ずぶ濡れの私のために衣類を用意し、温かいコーヒーと煙草を振る舞ってから、食事まで頂きました。私はこの優しい言葉と救助された安堵感から目頭が熱くなるのを覚えました。
今回の海難事故を顧みて、海上保安部と巡視艇の方々、船越漁協救難所の救助船の方々及び会員仲間の深見氏ほか3名の方々には大変ご迷惑をお掛けしましたことにお詫びと御礼を申し上げます。また、海を愛し、海で働く人達が身体で模範を示されたことに、心からの感謝と貴重な教訓を得たこと、素晴らしい仲間を持っていたことに大きな喜びをかみしめております。
今後はこの経験を生かして、多くの皆様にご迷惑を掛けない安全な海洋レジャーを楽しみたいと思っております。
事務局追伸
救助巡視艇の紹介
○この救助に当った巡視艇30m型巡視艇「にじぐも」
所属 唐津海上保安部
木村清船長(51才)
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